有限体の基本的な性質まとめ。標数や要素数について

有限体の基本的な性質まとめ。標数や要素数について
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大学に入ったら、群・環・体というある構造が入った集合を学んでいくことになります。
その中でも、整数について勉強をしようと思ったら有限な要素で構成される体を考える必要が出て来ます。

ここでは標数とは何かということや有限体と要素数の関係について基本的なところをまとめておきます。

証明は詳しく知りたい人のために書いているので基本的に飛ばしてください。わからないところがあればTwitterなどで気軽に話しかけてください。

導入

体とは

簡単に言えば、群は足し算が定義された集合、環は足し算と掛け算と分配法則が定義された集合、体はそれらに加えて0以外の要素で割り算が定義された集合ということになります。

ここで、足し算と簡単に言ったものの中には、足し算の順番は入れ替えても良いよとか、単位元の存在などの条件があるのですが、詳しい定義はどこにでも載っているので随時参照してください。

例えば実数全体の集合や複素数全体の集合は体になっています。

有限体とは

有限体というのは、体の中でも要素の数が有限個しかないもののことです。
例えば、\(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\)というのは要素が0と1しか存在しない集合ですが、これは体になっていて要素が2個しかないので有限体です。

もう少し一般的に言えば、\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z} = \{0,1,…,p-1\}\)という集合を考えましょう。これが体になることはすぐ後に示します。

整数の性質を代数学っぽく勉強しようと思ったら、有限体の理解が重要になります。

例えばある多項式などの整数解などを調べる際に、余りの世界で考えることはとても有用です。
素数pで割った余りの世界というのが、\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)という有限体になっているので、有限体の構造を調べることは重要なのです。

定理1

\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)は体である。

証明

任意の\(\{1,2,…,p-1\}\)の元aを一つとる。\(a*b=1\)となるようなbがもしなければ\(a*c=a*d\)となるような異なる2つの数c, dがあるはずである。\(a*(c-d)=0\)となるが、p\(\mathbb{Z}\)上でpは素元であるから\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)が整域であることがわかるのでこれは矛盾である。よって\(a*b=1\)となるbは存在する。よって\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)は体である。

有限体の性質

標数p

有限体は標数というものを持ちます。標数とは何かについて説明していきます。

命題2.1

Fを有限体とする。ある素数pが存在し、Fの加法に関する単位元の整数倍で構成される集合はFの部分体となり\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)と同型になる。

証明

Fの加法に関する単位元をeと置く。写像\(\phi: \mathbb{Z} \to F \)を\(n \mapsto ne\)で定める。この写像\(\phi\)は準同型写像になる。\(Im\phi\)は有限部分環で整域になっている。

fは単射ではないので\(Ker \phi\)はゼロイデアルではない。ZはPIDなので\(Ker \phi\)は単項イデアルであり、\(\mathbb{Z}/Ker \phi\)も整域となることから、\(Ker \phi\)が素イデアルであることがわかる。
よってある素数pが存在し\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \cong Im \phi \subset F\)が示された。

ここで、何が重要かというと、体が与えられた時にある素数pが定まるということです。この素数pを体Fの標数と言います。

ある体の標数がpでも要素数はpとは限りません。有限体の要素数と標数の関係は後で見ていきます。

まず標数に関する基本的な性質を見ます。

命題2.2

標数pは\(p*1=0\)となる自然数のうち最も小さいものである。

証明

pより小さい素数\(p’\)で\(p’*1=0\)となることは、命題2.1より\(Ker \phi=p\mathbb{Z}\)であることに矛盾する。また、\(p*1=0\)である。

この標数に関連した有限体の嬉しい性質があります。

標数pの有限体では任意の元に対してpをかけると0になるというものです。

定理2

標数pの有限体Fの任意の元\(\alpha\)に対して、\(p\alpha=0\)となる。

証明

\(\alpha=1*\alpha\)であることから、\(p\alpha=p*1*\alpha=0\)となる。

このことから、次の定理が成り立ちます。

定理3

\((\alpha+\beta)^p = \alpha^p+\beta^p\)

証明

展開すると、\(\alpha^p, \beta^p\)以外の項は全て係数が二項係数\({p \choose k} (k = 1,…,p-1)\)となるが、これらは全てpを因数に持つ。よって定理2から全て0となる。

次に、標数ではなくて要素数に関連する重要な性質を見ていきましょう。

要素数mの体について考えます。ある0ではない元と体の要素数には重要な関係があります。

定理4

有限体Fの任意の元\(\alpha\)について\(\alpha^m = \alpha\)が成り立つ。

証明

\(\alpha = 0\)の時、明らかに成り立つ。

体Fから0を除いた集合F*は循環群になることを示す。
\(\psi(d)\)をF*の元で位数がdの元の数とすると、\(\sum_{c|d}\psi(c)=d\)となり、メビウスの反転公式から\(\psi(d)=\phi(d)\geq1\)となるからである。ここで\(\phi(d)\)はオイラーの\(\phi\)関数である。

よってF*には位数\(m-1\)の元が存在する。よってF*は循環群である。
要素数m-1の循環群の任意の元\(\alpha\)は\(\alpha^{m-1}=1\)となるので、\(\alpha^m = \alpha\)である。

ベクトル空間と有限体の要素の数

次に体の要素の数について見ていきます。
先ほど2個の要素からなる\(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\)という体を例に出しました。また、要素の数が素数個である\(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\)は体であることを示しました。

では他の有限体はどのような要素数となっているのでしょうか。

例えば現在は2018年です。2018個の要素からなる有限体はあるのでしょうか?

答えはNoです。

結論から言うと全ての有限体の要素の数はある素数pとある自然数nを用いて\(p^n\)と表されることがわかります。
つまり素数のべき乗となるような要素数ではない体は存在しないのです。2018は素数のべき乗で表されないので、2018個の要素からなる有限体は存在しないことがわかります。

命題5.1

体Fの標数をpとする。この時、Fは\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)上のベクトル空間である。

証明

pが素数の時、\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)が体であることは示した。

\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)の元を\(\{0,1,…,p-1\} \subset \mathbb{Z}\)の元に対応づける写像を\(\phi(x)\)とおく。この時\(a \in\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)によるスカラー倍を任意の\(\beta \in F\)に対して\(\phi(a)\beta \in F\)と定義する。

この定義によってベクトル空間の公理を満たすことを示す。特にスカラー倍に関する公理をここで示す。

\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)の任意の2つの元\(a, b\)と任意の\(\beta \in F\)に対して
\(\phi(a + b)\beta = \phi(a)\beta + \phi(b)\beta\)であることは、\(c = a+b\)とおいた時にある整数nが存在して\(\phi(a)+\phi(b)-\phi(c)=np\)となり、定理2より\(\phi(a + b)\beta – \phi(a)\beta + \phi(b)\beta = np\beta = 0\)となることから従う。
同様に\(\phi(a)(\phi(b)\beta) = \phi(ab)\beta\)も成り立つ。

以上よりFが\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)上のベクトル空間であることがわかる。
以降スカラー倍を\(\phi(a)\beta\)ではなく\(a\beta\)のように略して書く。

この命題を使うと、有限体の存在性について以下のことが示せます。

定理5

Fが有限体なら要素数はある素数pとある自然数nを用いて\(p^n\)と表される。

証明

任意のベクトル空間は基底を持つことがツォルンの補題から証明される。
よって、例えば基底を\(\omega_1, \omega_2,…, \omega_n\)とおくと、Fの任意の元は\(a_1\omega_1+a_2\omega_2+…+a_n\omega_n\)と表され、Fの元と1対1対応する。ただしここで基底の取り方によらずにベクトル空間の次元nは一意に定まる。
\(a_1,…,a_n \in\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)よりFの要素数は\(p^n\)となる。

これを言い換えると\(p^n\)と表されないような要素数の有限体は存在しないことがわかります。

任意のp, sについて\(p^s\)個の元を持つ体が存在する

逆にある素数pとある自然数nを用いて\(p^n\)と表されるような全ての数について、それが要素数になるような体は存在するでしょうか?

答えはYesです。

一つ注意しておきたいことがあります。\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)が要素数pの有限体であることを示しました。このことから、\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)のn個の直和が要素数\(p^n\)の有限体なのではないかと思うかもしれません。実際に僕はそう思ってしまいました。

しかし、nが2以上の時にこれは環ではあるものの体にはなりません。乗法に関する単位元は\((1,1,…,1)\)ですが、例えば0元ではない元\((1,0,0,…,0)\)が逆元を持たない(割り算ができない)ので体にはなりません。

証明の流れだけを先に説明しておきます。

以下、既約多項式とはそれ以上因数分解できない多項式のことです。

まず、n次元の既約多項式があれば\(p^n\)個の要素を持つ有限群は存在するということを示します(命題6.1)。その後、\(n\geq1\)の時はn次元の既約多項式が存在するということを示します。

今から示そうとしていることはある程度複雑ですので、適度な事前知識がない場合は流し読みしてください。

命題6.1

\(f(x) \in F[x]\)が既約多項式の時、\(K=F[x]/(f(x))\)は体になる。また自然な写像\(\phi: F[x] → K\)に対しφ(x) = \(\alpha\)とおきf(x)の次数をnとおいた時に、KはF上のベクトル空間となり\(1,\alpha,…,\alpha^{n-1}\)はその基底となる。

証明

F[x]はPIDである。f(x)は既約多項式なので\((f(x))\)は極大イデアルとなる。よってKは体となる。
\(1,\alpha,…,\alpha^{n-1}\)はKを構成する。

また、\(a_0+a_1\alpha_1+…+a_{n-1}\alpha _{n-1}\)となるような任意の\(a_0,…,a_{n-1}\)に対し、\(g(x) = a_{n-1}x^{n-1}+…+a_0\)と置くと\(g(\alpha) = 0\)となる。

\(g(x)\neq0\)の時、\(f(x), g(x)\)は互いに素なので\(p(x)f(x) + q(x)g(x) = 1\)となるような\(p(x), q(x)\)が存在する。これより\(p(\alpha)f(\alpha) + q(\alpha)g(\alpha) = 1\)が得られる。しかしこれより\(0=1\)が導かれる。よって\(g(x)=0\)つまり\(a_0,…,a_{n-1}=0\)となる。

よって\(1,\alpha,…,\alpha^{n-1}\)は線型独立である。

ここで\(F_d(x)\)を次数dで\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)上のモニックな既約多項式全ての積とします。

モニックというのは最大次数の項の係数が1であるということを指します。

さて、\(x^{p^n}-x\)の因数分解を考えると以下のような等式が成り立ちます。

命題6.2

\(x^{p^n}-x = \prod_{d|n} F_d(x)\)

証明

まず\(x^{p^n}-x\)は\(f(x)\)で割れた場合、\(f(x)^2\)で割れないことがまず示される。

次に\(f(x)\)を次数dのモニックな既約多項式だとすると、\(f(x)|x^{p^n}-x\)と\(d|n\)が同値だということがわかる。

\(N_d\)を次数dのモニックな既約多項式の数とします。

すると命題6.2は以下のように書き直せます。

命題6.3

\(p^n = \sum_{d|n} dN_d\)

証明

命題6.2において次数に注目すれば求まる。

以上を用いると、有限体の存在について以下の結論が成り立ちます。

定理6

任意のp, sについて\(p^s\)個の元がある体が存在する

証明

メビウスの反転公式より、メビウスの\(\mu\)関数を使うと、

\(N_n=n^{-1}\sum_{d|n}\mu(n/d)p^d\)

となる。よって\(n\geq1\)の時、\(N_n \geq 1\)である。つまり、任意のnについてn次の既約多項式は存在する。
よって命題4より、任意のp, sについて\(p^s\)個の元を持つ体が存在する。

与えられた要素数を持つ体の存在性が言えました。

最後に

代数学に対する知識がほとんどなかったのに、ふとした拍子にこの記事にたどり着いた人は「要素数が\(p^n\)個となるような有限体は存在する、そしてこのように表されない要素数の有限体はない」ということ、そして「標数というものがあり、便利な定理が使える」ということを心のどこかに置いておいてください。

そして、有限体にもっと詳しくなりたくてこの記事にたどり着いた人は一つ一つの証明をしっかり読み解いて行ってください。

今回の内容は以下の本を参考にして書きました。ほとんど予備知識を仮定しておらず、群・環・体に関する基本的な知識があれば読み進められるので、整数論に興味のある方や今回の記事が面白いと感じた方はぜひ読んでみてください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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