「曲線が直線よりも長い」ことが直感的に腑に落ちない人へ

「曲線が直線よりも長い」ことが直感的に腑に落ちない人へ
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学生時代に考え抜いた数学上の命題が、今でも頭に残っていることは幸福である。

曖昧なまま暗記に走った概念は忘れ去られるべくして忘れ去られるが、根源的な問いに立ち向かい続けた体験は10年など安易に飛び越えて記憶に残る。

今回は、いつか遠い学生時代に僕自身なかなか腑に落ちなかった「2点を結ぶ線分は、直線よりも曲線の方が長くなる」という問題を解説していこうと思う。

問題

例えば以下のような点 s, t と 線 A, B があったときに、AとBのどちらが長いだろうか?

「そんなの、当然Aだろう」と思う方も、よくよく考えてみて欲しい。例えば、これが曲線ではなく直線だとしたらどうだろう。

s, t, u という3点があった場合に、線分 st, su, ut を考える。

su と ut の和が st よりも長いこと。これは色んな証明方法があると思うが、

例えば u から st に垂線を書き落とせば、下の図にあるような方針で三平方の定理より証明できる。

話を曲線と直線に戻すと、そのように簡単な話では終わらない。

ここで、ありえそうな方針としてAの中間地点に u という点を置いてみよう。

この時に先程の三角形の辺の長さに関する先程述べた性質から、st という直線よりも su + ut という線の方が長くなっている。

そして、su + ut という新たな線は、曲線Aの長さに近づいているように見える。

そこで、曲線上に中間地点をどんどん増やしていこう。

すると、\(s_0 s_1 + s_1 s_2 + s_2 s_3 + s_3 s_4 + s_4 s_ω > s_0 s_ω \) という不等式が成り立つことがわかり、

左辺は直感的にはどんどん曲線の長さに近付いているように見える。

となると、「曲線上に点をもっと増やしていけば、上の不等式の左辺が曲線の長さに近づいていく。」ということはなんとなく言えそうだ。つまりは曲線Aが直線Bよりも長いということは言える。

もう少し論理を進めるために、「左辺はある値に収束するのか、もしかしたら無限大になるのではないか」「曲線の長さとは何か、そもそもどう定義されうるのか」など、いくつかの不安を解決していこう。

解決

左辺が無限大に発散するのを抑えるのはそれほど難しくない。曲線に接線が引けることを仮定すれば、

\(s_0 t_0 + t_0 s_ω > s_0 s_ω\)という不等式が成り立つ。

また、先程は曲線上に中間地点をどんどん増やしていったが、その際に接線を引いていけば、三角形の三辺に成り立つ不等式により、

\(s_0 t_0 + t_0 s_ω > s_0 u_0 + u_0 s_1 + s_1 u_1 + u_1 s_ω > s_0 + s_ω\)

というふうに線分長さの和は\(s_0 t_0 + t_0 s_ω\)に抑えられており、無限大に発散することはないことがわかる。

中間地点の点の数を無限大に増やしていった時も、同様の不等式が成り立つ。

よって、無限個の中間地点を結ぶ線分の和は無限大に発散せずに収束することがわかる。

曲線の長さの定義をそもそも与えていなかったが、実際に本記事で考えていたような、曲線上に無限個の中間地点を与えて線分の和を計算していき、それが収束する時に曲線の長さとするというものが一般的なようである。

また、このように綺麗に単純に曲がっている曲線のみを取り扱うことはもちろん曲線一般の性質を確定付けるものではない。

ただ人々が一般的に図示できるような曲線であれば、有限回の分割で各々が曲率の正負を一定に取るようなものは存在するとして良いだろう。

つまりは想像されうる大体の曲線は上図のようなシンプルな曲線の集合体であるため、特に本記事で描いてきた円周の一部のような曲線で説明すれば十分であろう。

残る問い

僕が学生時代に数学の先生に曲線の長さの定義について質問をした際には、「無限個の中間地点を結ぶ線分の長さの和」と「それらの中間地点の接線を結ぶ線分の長さの和」が収束する値は一致し、それを曲線の長さと呼ぶ。という説明を受けたのが混乱の元ではあったが、

果たして接線を結ぶ線分の長さの和は定義に挙げた曲線の長さに一致するのだろうか?

接線を結ぶ線分の長さの和は、曲線を無限個に分割した時に曲線の長さによって下から抑えられていることは確かだが、それが確かに曲線の長さに収束することは証明が難しそうに思える。

直感的には接線側の長さの和も曲線の長さに収束するだろうとは思えるが果たしてどうだろう。滑らかな曲線という仮定から導けるのかもしれないが、あいにく幾何学については詳しくないためにこれ以上の進展は得られなさそうである。(どなたか詳しい方がこの記事を見た際にはぜひ教えてください)

また、フラクタル図形や無限回クネクネした曲線を考えると曲線の長さは容易に無限に発散してしまう。

このような特殊な図形にも思いを馳せること、または今回は詳細を割愛した収束や無限小に対する考察をより進めてみることも次のステップとしては良いだろう。

当たり前と通り過ぎてしまうものの中にこそ考える楽しさがあることが少しでも伝われば幸いである。

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