「絶対なんて絶対ない」を数式で表す
- 2017.01.08
- 数学
RADWIMPSの「37458」という曲に、「絶対なんて絶対ない、ってそれはもうすでに絶対です」という歌詞が出てくる。
また、小さい頃に「絶対なんてないよ」と言われたら「絶対?」と聞き返すこともよくした。
だから少なくとも僕にとって「絶対が絶対にない」という命題は身近だったのだが、
誰しもが一度は聞いたことや考えたことがあるのではないだろうか。
絶対は絶対にないの?
背理法で考えてみると
「この世に絶対が絶対にないと仮定すると、絶対がないことは絶対なので仮定に矛盾する。よって、絶対は多分ある。」
ということが言えそうだ。
「絶対にない」ということの否定は「多分ある」なので、このようになるのだ。
ここで、「絶対は多分ある」という命題を考える。
するとまず「何が絶対なの?」と言いたくなるだろう。
そして「絶対であること」をこの世の中から探し出そうとするものの、それはなかなか見つからない。だからと言って「絶対が多分ある」ことは証明されたので、絶対が絶対にないと言い放つことはできない。
この世界は、絶対は多分あるのに絶対が全然見つからない世界なのである。
絶対が多分あるって、数式で言うとアレに似ているな
ふと思った。この感じ、このグラフみたいだなって。
原点を中心に拡大すると、
もっと拡大すると、
ほらほら!
この数式は\(y=x\sin(\frac{1}{x})\)である。
このグラフと「絶対なんて絶対ない」の何が似てるかと言うと、
この数式は\(x=0\)の時に値を持たないということだ。
なぜなら\(x=0\)の時は\(\frac{1}{x}\)が値を持たないから。\(x\)を\(0\)に近付けると、\(y\)はこんなに\(0\)に近付いて行くのに結局のところ\(y=0\)にはならないのだ。
このグラフと「絶対は多分ある」という命題との関係を考えよう。
「\(x\)を\(0\)に近付けると、やっぱり\(x=0\)の時に\(y=0\)になるんではないかと予想して、でも実際にはこの数式は\(x=0\)において定義されていない。」
これはまるで、
「この世界で絶対を探すのに、全然見つからない。やっぱり最終的には絶対は絶対にないのではないかと思えてくるのに、それは違うと証明されている。」
ということを表しているようである。
この世界で絶対を探す行為というのは、ある\(x\)を\(0\)に近付ける行為と対応しているのだ。
「絶対」という概念
「僕が生きていること」や「ここにりんごがあること」など、この世の何かを記述する言葉を用いたとき、人間はそれが内包する不確かさを感じ取って、本当にそうなのだろうかと確かなる存在を実証しようとする。だが、そこで「絶対」という言葉を用いてしまうと\(x\)を\(0\)に近付けてしまう問題が発生するのだ。
この世界には絶対が多分あることは証明されているが、絶対は見つからないようになっている(絶対はないらしい)、という問題である。
このような相反する事象が生じている理由は何か。
それは「絶対」という概念の存在である。
この世界において「絶対」という概念の存在を人類は仮定している。
しかし人類は「絶対」という概念を正しくとらえることができているのだろうか。思うに、そうではない。人類が考える「絶対」という概念はぼんやりしていて掴みどころがないのだ。
つまり辞書の定義による「他との比較対立を超えていること」ということの意味を、人類は真に理解できないのではないだろうか。
「絶対」という概念の存在が不確かだとすると、「絶対なんて絶対ない」という命題はなんら意味をなさない。人類は、絶対という言葉の意味を真に理解していないのだ。そしてその言葉が意味する概念さえも不確かなものである。
「絶対」という概念の存在が不確かである、これは「絶対」という概念が絶対ではない、と言い換えられるのだろうか。違う。まず「絶対」という概念の存在が不確かである以上、不確かの否定として絶対という言葉を用いることはできないのだ。
「絶対」という概念の存在が不確かである。この考えによって、この世界の不確かさは増したがこの世界に明らかな矛盾は無くなったように思える。
また、絶対的なものが一つでも見つかったら絶対が存在する世界としてこの世界はもっとシンプルに記述できるだろう。
「永遠なんて存在しない」という命題、これは一見絶対的な命題に思えるかもしれない。何かが無限に存在する可能性など絶対にないと言い切りたくもなる。ただこれも「絶対」の場合と本質的に同じ問題なのだ。
「永遠が永遠に存在しない」という命題は矛盾であり、思考は\(y=x\sin(\frac{1}{x})\)のグラフ上を原点の方向へと進んでいく。
やはり世界はシンプルにはなり得ないだろう。ここにあるのはシンプルで確かな世界ではない。
複雑で不確かな世界を、これからも僕は生きていく。
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